さて、前回アマテルカミが岩室にお隠れになり、天下が暗くなり、政も機能せず大混乱になりました。
この時に登場するのがオモヒカネさんです。ワカ姫と近江野洲河辺に住み、国中の智恵神としてあがめられていたオモヒカネさんは、天下が暗くなるのを見て非常に驚き、タイマツをかかげて伊勢に向かいました(オモヒカネさんとワカ姫については後日書きます)。
そしてアマテルカミの近くに仕えていたタジカラヲ(天手力男命、オモヒカネさんとワカ姫の子)に事情を聴き状況を理解しました。
ハツモノヌシ(大国主命、トヨケさん[豊受大神]の子供。イサナミの末の弟)がマサカ木の上枝に和玉(にぎたま)、中枝にマフツ(完璧)の鏡、下枝に和幣(にきて)をかけて祈りました。
ハツモノヌシが祈った後に、ウズメ(天鈿女命)は常緑のシダのヒカゲカヅラ(日陰葛)を襷(たすき)にしてチ(茅)草を巻いた鉾(ほこ)を持ち、そして朮(ヲケラ)草を庭火に焚き笹(ささ)を斎花(いわはな)とし、神倉(かんくら)の神戸の前には篝火(かがりび)を燃やしました(記紀では裸踊りをして、となっていますが裸踊りはしていません)。
(ウスメーウズメー天鈿女命ー舞踏を業とする侍女、舞姫、ダンサー。個人名ではなく、舞踏を業とする女官職の職名と思われます。)
そこでオモヒカネさん、常世のナガサキの歌と踊りを大勢の神々と共に振り付きで元気よく歌い舞い始めました。
アマテルカミを誘い出すために、諸神たちは岩戸の前に車座になり、まるで春を謳歌するように笑いはやして歌いました。
カクノキ カレテモニホユ 橘の木 枯れても匂ゆ
シホレテモヨヤ アカツマアワ 萎れても好や 吾が妻合わ
アカツマアワヤ 吾が妻合わや
シホレテモヨヤ アカツマアワ 萎れても好や 吾が妻合わ
アマテルカミを香ぐ木のように、いい匂いのする夫に例えたもので、「大神が岩戸に隠れてこの世においででなくても、その余香が素晴らしいので、一同酔うが如くである」というような意味でしょうか。
さて、狙い通りにアマテルカミは、「何やっとんじゃ・・・( 一一)」と(言ったかどうかはしりませんが)、思い岩戸を少し開けて窺うと、タジカラヲが戸を強く押しのけ、アマテルカミの御手をとって「どうぞお出ましくださいませ」と外に迎えました。そこでハツモノヌシがしめ縄を張りめぐらし「もう絶対に岩戸には入られませんように」と申しあげたのでした。
ソサノヲハ イワオケチラシ ソサノヲは 穢を蹴散らし
ナオイカル キミオソレマシ なお怒る 君 恐れまし
イワムロニ イリテトサセハ 結室に 入りて閉ざせば
アメカシタ カカモアヤナシ 天が下 明暗も紋無し
ヤスカワノ ヤミニオトロク ヤスカワの 闇に驚く
オモイカネ タヒマツニハセ オモイカネ 灯燃に馳せ
コニトヒテ タカマニハカリ 子に訪ひて(タチカラヲ) 「タカマに議り
ヰノランヤ 祈らんや」
ツハモノヌシカ ツハモノヌシが
マサカキノ カンヱハニタマ 「真榊の 上枝は熟玉
ナカツヱニ マフツノカカミ 中つ枝に マフツの鏡
シモニキテ カケヰノラント 下 和幣 掛け祈らん」 と
ウスメラニ ヒカケオタスキ 渦侍らに ヒカケを襷
チマキホコ オケラオニハヒ 茅巻矛 朮を庭火(匂ひ)
ササユハナ カンクラノトノ 笹湯花 神座の外の
カンカカリ 神篝
フカクハカリテ 深く謀りて
オモイカネ トコヨノオトリ オモイカネ トコヨの踊り
ナカサキヤ ワサオキウタフ ”長咲” や 俳優歌ふ
カクノキ カレテモニホユ 橘の木 枯れても匂ゆ
シホレテモヨヤ アカツマアワ 萎れても好や 吾が妻合
アカツマアワヤ 吾が妻合わや
シホレテモヨヤ アカツマアワ 萎れても好や 吾が妻合わ
モロカミハ イハトノマエニ 諸守は 結戸の前に
カシマトリ コレソトコヨノ 姦踊り これぞトコヨの
ナカサキヤ ”長咲” や
キミヱミホソク 君笑み 細く
ウカカエハ イハトオナクル うかがえば 結戸を投ぐる
タチカラヲ ミテトリイタシ タチカラヲ 御手取り出し
タテマツル ツハモノヌシカ 奉る ツハモノヌシが
シメナワニ ナカエリマシソ 閉縄に 「な返りましそ」
(アマテルカミは入られた、イワムロというのは「結室」で、結わえた室、閉ざされた空間、密室という意味です。ですからいわゆる「岩戸・岩室」というイメージではではないと考えています。)
これがホツマツタエに書かれた「天の岩戸隠れ」のお話しです。
今でもアマテルカミがとったこの行動がイマイチしっくりきませんね。「キミオソレマシ」とありますが、「恐れ」だけで臣や民を置いて密室に籠るような行動にでるとは思えません。
ハナコを亡くした悲しみ、弟の傍若無人で横暴な行動、どうしたら諭せるか、民の幸せ、臣のこと后のことと、ありとあらゆる課題を前に落ち着きが欲しかったのかも知れませんね。
皆さんはどう思われますか?
その後、当然罪に問われたソサノヲは、本来は死罪のところを、セオリツヒメ・ホノコの嘆願によって罪一等が減じられて出雲に追放処分となりました。
つづく。
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